清掃活動

REPORTアイスフォールを超えて

2002年4月17日

 



 午前4時30分、起床する。テントの内張りは凍りついたまま。緊張していたのか、ほとんど寝られなかった。時おり、腕時計に目をやり、
「出発まであと5時間か」
「あと、3時間か~」
と、迫ってくる出発時間に対して、寝袋の中に潜り込んだまま、
「俺はテントから出ないぞ!」
などと心の中でアイスフォール越えを強く拒否していた。

  そうはいっても、現実には行かなければならない。出発までの残された貴重な時間を寝袋のなかで息を殺しながら物思いにふけっていた。うとうとしていたら、日本を発つ直前に高田馬場にあるイタリアレストラン「イルキャステロ」に行ったときの夢を見ていた。「イルキャステロ」は僕にとって大切な場所だ。ヒマラヤ行きの前には必ず行く店。どうしてかよく分からないが、きっと心の整理ができる場なのかもしれない。決まって二階の一番奥の角。もちろん今回も・・・。

 夢の中で美味しい赤ワインを飲みながら、楽しそうに話していた。いい夢だった。夢は実に都合がいいようにできていて、実際は「イルキャステロ」の前に車を違法駐車し、警察に駐車違反で切符を切られた所までは夢に出てこなかった。

 5時30分、シェルパ達とベースキャンプを出発。前日に行われた安全祈願の石塔に火がつけられ、シェルパ達と神に祈りを捧げ、出発。出発直前に「うさぎ」と握手し、ついでにチュっとキスした。
「あいつの唇はめちゃくちゃ冷たかったな~」
アイスフォールの取り付きまで約30分。あれだけ寝袋から出たくなかったのに、いざ出発してしまえば、スイッチが入る。いやな緊張感から戦闘的な気持ちに変わり、徐々にテンションが上がっていき、実に気持ちの良い緊張感へと変わっていくのを感じることができる。

 アイスフォールに突入してから、一時間しないうちにクレパスに架けられたハシゴが出てきた。通常、ハシゴとは下から上に登るもの。しかし、ここではタテに口をあけたクレバス横断するためにヨコに渡されている。

  金属のハシゴと登山靴の底につけているアイゼンが同じ金属のため相当神経を使わないと滑ってしまう。1本のハシゴで届かない場合は、3~4本のハシゴをロープで連結して使用する。連結されたハシゴの数が多ければ多いほど、歩いている最中にハシゴがフワフワと揺れる。眼下には100メートル以上も深い真っ暗な世界が、まるで口を大きく広げて「おいで おいで」と待っているかのようだ。シェルパ達はハシゴを渡るときによく
「オンマニペメフム」
と口ずさむ。ラマ教の祈りだ。

 このハシゴだけではなく、ちょっとしたビルほどある氷柱群も危険だ。その傾いた氷柱はいつ崩れるか分からない。傾いた氷柱の下を通過しながら、
「今、この氷柱が崩れれば俺なんかミンチだな~」
と思わずスーパの肉売り場に並ぶラップされたミンチ肉がいつも頭をよぎる。

 実際にこの氷柱はよく崩れる。ベースキャンプでよく夜中に爆音に起こされるが、大抵はこの氷柱が崩壊する音。氷柱の崩壊により、登山ルート自体が変更されることも珍しくない。

 気をつけようにも、ここで頼りになるのは運だけ。あまり考えすぎてもノイローゼになってしまうだけ。だから、僕は
「なるようにしかならない!」
と諦めてしまう。自身の努力で切り開ける道もあれば、運命がかってに決めてしまう道もあると思っている。

 エベレストの自然の前での選択の多くは後者のほうだ。人間の無力さを感じずにはいられない・・・。

 アイスフォールは日々その姿を変える。2ヶ月間の遠征期間中でもハシゴの位置が変わったり、クレパスがさらに開くためにハシゴごとクレパスの底に落ちていったりする。したがって、予備のハシゴを準備しておかなければならない。氷河も生きているんですね。

 ベースキャンプを出発して6時間弱。やっとキャンプ1に到着。今年はクレパスが多発し、ルートが例年よりもジグザグし、99年の時よりも2時間以上も遠かった。キャンプ地でぐったりと疲れ果ててしまった。しかし、まだ緊張感から開放されたわけじゃない。今から、再びアイスフォールを下ってベースキャンプまで降りなければならない。一時間休み、再びアイスフォールの世界に戻っていった。3時半、ベースキャンプに還って来た。やばいぐらい疲れました。とりあえず二日間休み、19日に再びアイスフォールを超える。今度はキャンプ2(6400メートル)を目指す。それまでの二日間はとても大切。ゆっくりと休養に専念します。

ベースキャンプにて 野口(犬)健

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