代表あいさつ
よく「どうして色々な活動をするのですか」と質問されます。
その度に「どうしてだろう」と自問自答します。色々な理屈はありますが、しかし、自問自答を繰り返している内に最も強く感じたことは「現場」です。
僕は山屋として世界中の山々に登ってきました。僕にとって世界の山々が「僕の現場」です。現場に行くとそこで起きていることを自分の目で見ます。現場には匂いがあります。匂いはリアルです。例えば初めて富士山の樹海に捨てられた不法投棄の現場に行った時の事は今でも脳裏に焼き付いています。山積みされた注射器の山。医療廃棄物が捨てられた現場でしたが辺り一面、薬品の匂いが充満していました。
何故、ゴミを捨ててはいけないのか。例えば土壌汚染や野生動物に与える被害など色々な理由がありますが、僕がまずその現場で感じたのは「気が枯れている」ということでした。「気の枯れた空間」の中にいると今度は人の心までが「穢れ(けがれ)ていく」ものです。そしてあの現場を目にした時から僕の中では富士山の清掃活動は始まっていたのです。
僕も色々な現場に行きます。現場に行く前に情報も集めます。データを頭の中に入れると「知ったつもり」になります。もちろん、データも大切ですが、データばかりだと無味乾燥、つまりリアリティーがなかったりします。現場はデータよりも生々しかったりします。それまで何となく平だった知識が、現場体験によりムクムクと立体化していきます。それが「知る」って事なのだと僕は感じています。
僕にとって「知る」とは現場で「見る」ということ。「見る」事によって本当の意味で「知る」。「知る」ということは同時に「背負う」事でもあります。それが「どうして色々な活動を行っているのですか」の問いに対する僕の答えでした。
ヒマラヤや富士山での清掃活動、シェルパ基金、ヒマラヤでの学校建設や、これから始まろうとしているヒマラヤでの森作り、富士山ビュートレイルなどこれからも現場の第一線で様々な事を感じながら活動を続けていきたいと思います。そして多くの方々と一緒に現場で「見て」「知って」「背負って」いきたい。「環境」の「かん」は「わ」とも読みます。色々な「わ」があると思いますが、僕が現場で感じる「わ」とは人と人との繋がりです。このピークエイドではアクションとして清掃キャンペーン、山登りツアー、また、シンポジウムや勉強会を開催していきます。ピークエイドから更なる「環」を広げていきたいと思います。
ピーク・エイド 理事長 野口健